粉屋の大阪to考想

大阪都構想否決を受けて、その辺をだらだらと書いてみます。大阪の政治状況も併せて書いていきたいですね。Twitter: KONAYA @PAN_KOYA

小池都知事の豊洲移転延期決断における行政手続きの不備と東京都の盛土に関する自己検証報告書の問題点

小池知事「知事の部屋」/記者会見(平成28年9月30日)|東京都

 

小池都知事の9月30日の会見で、豊洲市場の地下空間設置と盛土がなされなかったことに関する東京都の自己検証報告書がありました。今回はこれについて書いてみたいと思います。書きたい点として小池都知事の豊洲新市場移転延期に関する行政手続きの不備と、東京都の盛土などの自己検証の問題点について書きたいと思います。

 

豊洲市場地下空間に関する調査特別チーム|東京都中央卸売市場

 まず、今回の豊洲移転における小池都知事の行政手続きの不備を書きます。前回と重なる部分もありますがお読み頂けたらと思います。

 

① 小池都知事の豊洲移転における行政手続きの不備

  

小池知事「知事の部屋」 / 記者会見(平成28年8月31日)|東京都

築地市場豊洲新市場への移転に関して

 

 小池都知事が、8/31の記者会見で豊洲移転延期の発表を行いました。ここで小池都知事が問題視してるのは以下の3点。

 

 1.安全性への懸念

 2.巨額かつ不透明な費用の増大

 3.情報公開の不足

 

 1.に関しては、地下水の2年間のモニタリングが、豊洲市場の11月の移転日までに完了をしていない事。

土壌汚染の安全性を少なくとも今年11月18日以降に採水された地下水の検査を行って、2年間の地下水モニタリングの結果を確認してから判断をするということであります。(8/31会見から)

 この地下水モニタリングの結果で安全が確認されていないとして、延期の理由にされています。私はこの政治的判断は大きな問題点だと思っています。

 2.に関しては、豊洲新市場の全体予算が当初予算から大きく膨らんでおり、これを精査する必要があること。

 3.豊洲新市場に関する経済的な観点からの事業の継続性、予算の適正性、これについても調査

 市場で働かれる方々が「体に合った服を仕立てる」ということが大切なわけで、どのような改善策が必要なのかといったことも同時にプロジェクトチームでチェックをしていただきたいと思っております。

 

 2については、延期の直接的な理由にはならないと思います。別に延期をせずとも、11月の豊洲市場開場後に調査を行えばいいわけですから。別に延期をしてまでする必要がありません。事業の継続性についても、築地市場の関係者はそれで合意してるんですし。

 3は2と重なる部分がありますが、事業の継続性、市場改善策については、これは理由の一つにはなりそうです。要するに今の豊洲市場において実際にどう運営されるかについて、運営方法の問題がないかを調査し、改善策を作るというものです。しかし、これも「新市場建設協議会」(以下建設協議会。この協議会は築地の方と東京都が豊洲新市場のについて協議をし、合意を確認するためのものです。この豊洲関係では最高レベルの協議機関になっています。平成28年11月の移転の日取りの合意も、この協議会で承認をされて正式に決まっています。)で、決められたことです。だから築地の人達も「その運営方法でいいよ」と合意がなされています。改めてやる必要はないんですよね。建設協議会でそういう問題が築地の方々から、新たに提起されたのならともかく。だからこのチェックを市場問題プロジェクトチーム(以下PT)で行うという(この問題についてはPTに専属の委員が一人、配置をされています。)、小池都知事の政治判断が行われた理由については非常に不透明です。誰が「豊洲市場の改善策」が必要と問題提起したのか?その問題提起の妥当性は何に担保(専門家のオーソライズ(認可))されているのか?その全ての行政手続きの過程が不透明です。単純に小池さん個人の疑問であるなら、それは都知事の疑問ですから、それはそれで構いません。しかし小池さんがこの問題を通して常に言っている、東京都のガバナンス、東京都としての決定がそこにあったのか?という点で非常に疑問に思っています。現時点では小池さんの「感性」だったのでは?としか言えません。

 そして、1の豊洲市場の安全性への懸念。これが直接的な移転延期の理由になるのでしょう。またこの会見以降ですが、プラス、9/10の会見での建物下に盛土が無かった問題。これらは豊洲市場の安全性にかかる問題で、また今回の東京都の自己検証報告書(以下検証報告書)にかかわる問題です。検証報告書については後述します。よって、ここからは豊洲の安全性への懸念に絞って、話を進めます。

 

 今回の小池都知事の豊洲移転延期における直接的な理由は「2年間の地下水モニタリングの結果」(以下地下水モニタリング)が確認されていないというものです。この2年間の地下水モニタリングはなぜ必要かというと、形質変更時要届出区域の指定を解除するためです。2年間、地下水から何も定めた基準以上の汚染物が出なければ、解除ができるというだけのものです。形質変更時要届出区域とは以下のようなものです。

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よくある質問Q&A(形質変更時要届出区域)

 「形質変更時要届出区域」は、土壌汚染の人への摂取経路がなく、健康被害が生ずるおそれがないため、汚染の除去等の措置が不要な区域のことを言います。「形質変更時要届出区域」の指定は都道府県が行います。だから東京都自身が、豊洲新市場は汚染として直接には問題ない地域として認定しているという事です。「汚染土壌の飛散など」に対する対策も取られてますから、なおのこと問題はありません。仮に解除できなくても、何か工事をする際に市長(この場合で言えば特別区長かな?)に届けを出す手間が増えるだけですし。これが「要措置区域」なら問題なんです。土壌汚染の人への摂取経路があり、健康被害が生ずるおそれがあるため、健康被害が生ずるおそれがないように措置をする必要がある区域のことです。これだと汚染対策を取らないといけませんが、豊洲新市場は汚染対策済みで、後は経過観測をしてね、っていう土地です。だから東京都議のおときたさんもツイートで以下に説明をしています。

  以上のように問題はないという説明です。

 だから小池都知事の「地下水モニタリング」を豊洲新市場の移転の条件にしてしまったことは、政治的に最大級のミスだと思っています。一応、書いておきますが、小池都知事が地下水モニタリングを移転の条件にしたのは正論でもあるんです。確かに安全の確認はできてないとは言えますから。ただ、その安全を測る度合いはどうなのか?という点が蔑ろにされているんです。東京都の見解としては、地下水モニタリング豊洲移転の条件ではなかったんです。それが移転の条件なら地下水モニタリングの調査が完了・報告するのは年明け位でしたから(採水自体は11月予定ですが)、11月の豊洲移転の話は始めからできなかったんです。移転合意を建設協議会で、地下水モニタリング完了前の11月で合意してますから、地下水モニタリングは移転条件ではなかったんです。そして小池都知事自身も「第9回が2016年11月18日に最後の採水が予定されていて、そして、年明けの1月にその結果が公表されるという予定になっていて、あと1回の部分、法律上の問題はないという話もありますけれども、」というように8/31の会見で言っています。法律上は問題なく、地下水モニタリングが完了してなくても移転はできるという判断だったんです、東京都は。言い換えれば、地下水モニタリングの数値が悪い結果が出ても豊洲新市場においては汚染としての問題はない、という見解なんです。それなのに、小池都知事は地下水モニタリングを移転の条件にした。なぜか?シンプルな理由で、東京都が豊洲移転の汚染における安全指針を作ってなかったからです。要するにどれだけの汚染が、地下水(または建物内のベンゼンの大気濃度)から出たら豊洲移転はできない、という安全指針、条件を設定してなかったこと。これが今回、盛土問題に並ぶ、東京都の大きな瑕疵だと私は捉えています。ここの安全指針を東京都が作っていなかったために、悪い言い方になりますが、小池都知事の「正論」に抗することが都職員はできなかった。そこを小池さんに突かれたというのが今回の構図になると思っています。

 だからこそ小池都知事の地下水モニタリング豊洲移転の条件に「会見」でしてしまったことは大きな政治的ミスです。そして実際に基準値オーバーの汚染が地下水に出たことで、豊洲移転はにっちもさっちもいかなくなりました。今後、この地下水モニタリングをどうするかと言えば、専門家の判断を仰ぐという事だそうです。9/30の会見で小池さんはこれに対しての記者の質問にこう答えています。

 

【記者】2点目なのですけれども、昨日、青果棟の近くの3か所でベンゼンヒ素が初めて環境基準を超えたと。知事も延期の判断をするときに最重視したモニタリングで初めて出たということなのですけれども、モニタリングを今後も継続していくという話をされていると思うのですが、9回目、最終回が1月に出るのですが、その後も続けていくということになるのでしょうか。

【知事】(略)
結論から申し上げますと、モニタリングは続けます。2年間ということですから、まず2年間をきっちりやります。それは11月に採水をして、1月にその結果が出て、そして、2年間きっちりやる。今回、私がこだわっていたのは、まずきっちり2年間やりましょうと。決められていることでしょうと。それをオリンピック・パラリンピックの道路を作るためには逆算して早くしましょう、もう切り上げ、みたいな話になったので、それは違うということを申し上げてきたわけです。今回、このように出てしまったことに驚くわけではありますけれども。そして今後も着実に2年間のモニタリングは引き続き続行していくということで、9回目の、11月に採水して、1月にその結果が出るということのモニタリングを引き続き計測をしていくということと、それから、その後、では、どうしますかということについては、まず専門家の会議が、平田先生座長です。それから、市場問題プロジェクトチームによる検証も行ってまいります。それから、細見先生もおられますので、こちらは土壌汚染対策工事と地下水管理に関する協議会、こちらの細見座長などに、専門家としての見地からご判断を、まずはそこでいただくということになろうかと思います
【記者】2年間9回を全体で判断するという理解。

【知事】そうです。そこは専門的に科学的に判断をしていきたいと思っております。

小池知事「知事の部屋」/記者会見(平成28年9月30日)|東京都

 

 今回の地下水モニタリングの基準を超えたことに対する、記者の質問への小池さんの答えが上のものになります。ここで小池さんの地下水モニタリングに対する政治的判断の問題点が大きく顕れています。それは何かというと、地下水モニタリングに異常が出た場合、移転を延期するという政治的決断に専門家のオーソライズが得られていなかったという事です。それは「その後、では、どうしますかということについては、」以降によく顕れています。ここで地下水汚染がどれだけ深刻な問題かを専門家としての見地から「御判断頂く」のが3者もいるという事です。専門家会議、市場問題プロジェクトチーム、土壌汚染対策工事と地下水管理に関する協議会。この3つのどこが判断するんですか?それすら決まっていないんです。じゃあそれぞれこの3つが、「移転は駄目」「移転して良し」「判断できない」と三者三様に提言してきたらどうするんですか?3つの専門家グループのどれを採択をするかを第三者委員会を立ち上げて判断するんですか?だから今回の地下水モニタリングで移転延期を決めた小池都知事の判断は「専門的に科学的に判断」したわけじゃないんですよ。本来であれば、この地下水モニタリングの条件に限って言っても、移転延期撤回・白紙化の条件を専門家に諮って課すべきでした。それがなされてない現在は、いったい何の情報を元に移転延期を決めたのか?という点で非常に小池さんの政治手法に不透明さを感じます。

 

 建物下に盛土がない盛土問題が発覚した時の会見で、小池都知事は盛土問題に対して次のことを言っていました。要約するとこうです。

 「建物下に盛土をしないという事は専門家会議でオーソライズ(了承)を得てない。

  オーソライズを得ずに、物事を進めてしまった行政的な問題」

 を一番の問題としています。だったら重ねて書きますが、今回の地下水モニタいリングを誰が専門的に科学的に判断」して「オーソライズ(認可)をしたんですか?という話になるんですよ。また東京都のガバナンス、企業で言うならコンプライアンスの問題というのも再三、小池都知事は会見を通して言われています。だったらこの地下水モニタリングを条件とした移転延期の政治的判断のどこにガバナンスがあり、コンプライアンスがあるのか?という問題なんです。専門的に科学的に判断」を誰がするのかすら決まってないのに。本来であれば、地下水モニタリングを移転延期の条件としてよいか?という判断根拠を科学的に得るために専門家会議などに「オーソライズ」していないといけなかったんです。それは行政手続き上、必須でした。でないと小池さんの会見での発言に整合性が取れません。

 

 この地下水モニタリング、ひいては東京都の安全指針がなぜ定まっていないのか?という問題ですが、簡単な理由です。「豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議」(以下技術会議)において、定めなかったからです。専門家会議では、豊洲の汚染に対して基本方針を定めました。そしてこの親会議である専門家会議の方針を、子会議である技術会議でそれを汚染対策の工法にし、具体化したわけです。だからその汚染対策工事の結果、汚染に対して豊洲市場が安全かどうかを判断する基準を本来、技術会議は専門会議の方針に則り、定める立場にありました。勿論、技術会議は汚染対策工事の工法を定める会議でした。しかしその工法からの結果について、豊洲市場の安全についてどう影響するかは提言をしておかないといけなかったと考えています。でもそれをしてない。それが全ての問題の根源です。技術会議が定めた基準というのは一言で言えば、彼らが決めた工法への評価基準に過ぎないんです。だから地下水モニタリングの基準、その結果も汚染対策工事の結果に対する基準・評価にすぎず、それが即ち、豊洲市場に対する安全の指針とはならないんです。だから今回、ベンゼンヒ素が地下水から検出されましたが、それが即、豊洲新市場への安全に対して深刻な問題とはならないんです。それは汚染対策工事における基準で、豊洲新市場の安全とは直接、リンクしないものを混同してるがために、マスコミの風評被害が深刻になっているんです。汚染対策工事としてはこの基準A、豊洲市場を安全に使うのはこの基準Bというように定めていれば何の問題もなかったんですよね。

 そしてなぜこれがこうなったかと言えば、専門家会議において確かに厳しい基準は定められました。でもそれは東京都の諮問なんですよ。東京都が「このレベルの安全を求める。豊洲における東京都が考える汚染対策の方針で問題はないか?」という諮問を専門家会議にした結果からの導きにすぎません。そして専門家会議での提言はそれに対して、ガチガチな基準は作っていません。随所に東京都の裁量部分を残しているんです。「これこれ、こういうようにした方が望ましい」という形で。そしてそれを技術会議では杓子定規に適用して、限界まで厳しい条件にしてしまったんです。それは技術会議の報告書の「3.提言の特色」によく顕れています。

3 提言の特色
⑴ 安全・安心を高いレベルで確保
ア 専門家会議の提言を確実に実現
土壌と地下水を環境基準以下に処理し、地下水の流出入や毛細管現象の防止など、専門家会議の提言を高いレベルで実現する。
イ 地下水を敷地全面にわたって早期に環境基準以下に浄化
市場施設の着工までに、建物下・建物下以外の地下水をあわせて環境基準以下に浄化する。
ウ 土壌汚染対策法改正の動向を考慮した対策
国において検討中の土壌汚染対策法の改正も視野に入れて対策を策定している。

報告書(概要版) (38.6KB) )

 

「専門家会議の提言を高いレベルで実現する。」

 

 これが全てです。技術会議で、100%を目指してしまったことが全ての原因です。自分たちが選んだ工法に自信があったのかは知りませんが、技術において100%は有り得ません。だから逃げ道は用意をしておかないといけないんです。この場合の逃げ道というのは、誤魔化し、数字の偽装という後ろ向きのものではなく、自分たちの対策が破れた時にどうするか?という安全側に立った考えをしているか、ということです。だから今回の汚染対策工事で言えば、今回のように基準値オーバーの数字が出た場合はどうするか?を考えておかないといけないんです。そしてその数字をどこまで抑制するか、それらの基準値オーバーの数字が出ても豊洲市場を運営するのに問題が無いようにする配慮が必要だったんです。それをしなかったことが全てです。具体的に書くと、仮に基準をオーバーしても豊洲市場(の建屋内)において、汚染問題が発生しない数値を基準値に設定するべきなんです。今回、地下水モニタリングで設定している数字は、汚染対策工事における最高の基準値です。この数字は汚染対策工事が真に機能しているかを判定する為の数字です。勿論、この数字が守られている限り、本来、設定されるべき安全指針の基準値より、当然、低くなる訳です。だから、この基準値が守られる限り、何の問題もありません。しかしそれは豊洲市場全体への安全に対する軽視ともいえる態度です。本来は工事の基準値より上の、豊洲市場を運営する上で最低限必要な値を安全指針として、基準値を作っておくべきでした。はっきり書くけど、専門家会議の面々は何の問題もありません。技術会議の面々。これが本当にボンクラだった、技術者ではなかった、というのが今回の地下水モニタリングにおける最大の問題点です。

 

 小池さんの豊洲における判断の問題点を整理します。次の3つになると思います。

 

 1.事業の継続性、市場改善策を豊洲市場の移転延期の判断材料にした妥当性

 2.地下水モニタリングを移転延期の判断材料にした科学的な根拠と政治的妥当性

 3.豊洲移転を建設協議会で諮らずに築地の人達の判断を得ていない事。

 

 1.については、事業の継続性や市場改善策を小池都知事が問題としたことの妥当性が本当にあるのか?という点ですね。勿論、これを理由に移転を中止する権限は小池さんにあります。しかし、これがPTで継続性や市場改善策については問題がないとなった場合、深刻な問題になると思います。まあ何でもつつけば問題は出てくるでしょうけど。実際、11月に開場しても改善しないといけない点は出たと思います。でもそれはどんなものでもそうです。100%なんて有り得ないんですから。よっぽど致命的なものが出ない限り、私はこれを移転延期理由にしたことはミスだったと判断します。

 2については、現時点でも移転延期理由にはならないというのが私の判断です。実際、今回の基準値オーバーの数字が出ても、今後をどうするかをはっきり小池さん・東京都サイドで対応は定まっていなかったことからもわかります。3つの会議に諮るとのことですが、例えば専門家会議の今回の基準値オーバーへの返答について予想します。基本的には、問題なし、それに対応する工事をするという提言ぐらいで収まると思います。それ以上、言いようなんてありませんし。今回、小池さんが3つに諮ると言ったことも問題なんです。それぞれが違うことを言った場合、小池さんの好みの意見を取るという事にもなりかねない。3つの会議の意見を公開するのか?という点も注視するべき点です。専門家からの提言が地下水モニタリングの完遂が条件になった場合、もう豊洲は移転中止と同じになるでしょうし。今回のように2年の調査中に基準値オーバーが出れば、そこからまた2年間の再々調査になる訳ですから。もう無理でしょ、っていう話になります。また2年間の地下水モニタリングを継続にして、移転を小池都知事が決めた場合、移転中止の条件にしたことが問題になるでしょう。移転するほどの問題ではなかったっていう事になりますから。まあその場合は、追加で何か条件を加えて誤魔化す形になるでしょうけども。

 この地下水モニタリングの問題は、汚染対策工事における基準と豊洲市場の安全基準を混同していることです。あの小池さんの会見でそれをマスコミが錯視していることも問題です。汚染対策工事では豊洲市場で70年間の生活をしても問題がないレベルにしたという説明です。その説明を東京都がしたことは問題ではあるんです。本来70年という数字で言いたいのなら、80年で計算して出すべきです。80年の数字の意味はないですけど、安全側に振るなら工事の条件は説明する数字より上げて然るべきです。しかし、あの出た数字で再計算をしても67年とか65年ぐらいにしかならないでしょう。実際はもっと小さい数字だと思いますが。地下水で今回の数字が出ても、豊洲市場の建物内のベンゼン濃度には影響は出ていません。だから本質的な豊洲市場の安全性で問題はないんです。ゴールを動かしている、という話になるかもしれませんが、ゴールを明確に定めなかった東京都の瑕疵です。11月に仮に移転したとして、地下水や建物内のベンゼン濃度に異常が出た場合、豊洲市場の営業を中止するのはどのレベルなのか?とか何もないですからね。とはいえ、それを定める必要もあるのか?とか色々、思うところはあります。

 3.については、これは明確に小池さんのミスです。豊洲市場においては、建設協議会で東京都と築地の人達の合意が無ければ、何も前に進めないというをガン無視したんですから。なぜこれをしなかったのか?は、今後の小池都政の傷になるでしょう。議会からは突っつかれるでしょうから、それがどれぐらいの影響になるかですね。

 

 小池さんは現在、無敵モードです。無敵モードというのは現時点(もしくは基準値オーバーが出る少し前)なら、移転をする決定、また移転白紙をしても大した傷にはならず、得るものの方が大きかったでしょう。でも今回、実際に地下水に基準値オーバーが出たことで、その無敵モードも終焉です。終焉は専門家からの見解が出た時点になるでしょう。それ以降はなるべく早く、豊洲の問題を収束することです。でないと政治的な勝ち分をすべて吐き出してなお足りない、という状況に小池さんは陥ると考えています。そういった意味では、橋下さんの言う「予算に注力した方がいい」というTwitterでの意見は正鵠を得たものになるでしょう。

 ぶっちゃけ言えば、小池さんは豊洲市場で移転延期・白紙で二股をかけていたと思います。最初の頃はね。それも移転延期・再開の方に重点は高かったと思っています。また実際に地下水から基準値オーバーが出るとも思ってなかったんじゃないのかな。ある意味、危険な火遊び的な面もあったのではと邪推しています。でも今回、基準値オーバーが出たことで、小池さんの首長としての政治家の能力が試されます。出なければ「安全確認ができた」で逃げれたんですけどね。豊洲の件は、小池さんの判断のみで移転延期を決めたわけですから、移転延期、白紙化、双方ともに小池さんは傷を負います。しかしそれを差し引いて勝ち分は残るうちに、さっと手仕舞いをして欲しいですね。来年の2月に移転ぐらいの短期決戦でいかないと、結構に厳しい政治状況になるように思います。

 

② 豊洲市場の地下空間設置と盛土がなされなかったことに関する自己検証報告書

豊洲市場の地下空間設置と盛土がなされなかったことに関する自己検証報告書
(平成28年9月30日)

 

 東京都が、建物下に地下空間が設置された事と盛り土がなされなかったことへの検証報告書(以下検証報告書」になります。ここではそれについて「検証」をしてみたいと思います。

 東京都が言う、検証のポイントとしては、

 『いつ、どの時点で誰が決定して盛土をしないことになったのか』

 『なぜ、都議会、都民などへの説明責任を果たしてこなかったのか』

の2点になります。ここでは検証報告書内にある5段階の時系列を、小池さんの9/30の会見から要約したものを見ていきます。

 

小池知事「知事の部屋」/記者会見(平成28年9月30日)|東京都

第1段階:平成20年から21年
 技術会議が開催されて、土壌汚染対策工事の内容と一緒にモニタリングや、万が一の際に作業するための空間の必要性が議論。市場当局の技術担当部門では、空間を地下に設ける場合の技術面での可能性と課題について検討を開始。
第2段階:平成22年11月
 基本設計の起工が決定され、この際の特記仕様書には、「地下」とは書かれておりませんけれども、「地下」という2文字はありませんけれども、「モニタリングの空間設計等は本設計に含む」という文言で明記。
第3段階:平成23年8月18日
 中央卸売市場・新市場整備部におけます部課長級の会議でございますが、この会議においては、地下にモニタリング空間を設置する方針を部のレベルで確認。
第4段階:平成23年9月
実施設計の起工決定が行われた時期。仕様書として、地下空間が建物の下全体にわたって示されている断面図が添付された資料がある。この実施設計起工の決裁が局として、地下に空間を設ける組織決定となった。
第5段階:実施設計完了の時点
高さ寸法が明記された地下空間が建物下全体にわたって示されておりまして、この時点をもって、建物の下に盛土がないことを最終的に確定したと判断される

 

 こんな感じです。これらの5段階を逐次、細かく指摘していくことはしません。意味がありませんから。なぜ意味がないかというと、色々書いてますが、これらのことは嘘ではないでしょう。資料を提示して、説明していますから。でも本当のことではありません。本当ではないというのは何かと言うと、この検証報告書は専門家会議、技術会議の提言を受けてこうした、というスタンスで書かれているからです。そんなことがある訳はないんです。(その辺については以前に書いた技術会議、専門家会議の記事をお読みください。)元々、地下空間は仕様・設計として存在しており、専門家会議・技術会議の提言を受けて、地下空間の使用目的に汚染対策などを加えたという視点が抜けている。さらに突っ込んで言えば、わざと抜かしてるんです。この前提は私の推測ですが、外れていないと思っています。まあこの検証以前の東京都の資料は無いらしいので、なかなか証明はできにくいと思いますけども。ぶっちゃけ、平成13年12月の豊洲移転正式決定以前の移転候補地選定時点から、地下空間は存在していたと思っています。その時はサイズや構造は、もちろん決まってないですが、ポンチ絵程度の構想はあったでしょう。

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 だから専門家会議以前の平成19年5月以前。これを本来は調査しないといけないんですよ。第1段階は平成20年から21年になっていますが、汚染対策を受けての細部の変更や部局での最終決定の確認に過ぎません。だから第一段階~第五段階は、東京都内での最終決定や、外部設計と東京都の確認です。私はこの年表の中では平成18年10月の「豊洲新市場基本設計相当」取りまとめ。これに注目をしています。ここで東京都内の基本設計が取りまとめられたことになりますから、これに地下空間があるかどうかですね。そしてそれ以前の建築部門での内部文書です。そしてこの表を見てるだけで、なぜ盛土を隠したかがわかります。平成19年1月の「豊洲新市場建設事業 環境影響評価書案」提出とありますが、ここですね。これは汚染対策などで再提出(再実施)したり、修正なども多くしていました。それで前のものから大きな変更になるものは出しにくかったのかな。これの担当者は知りたいですね。結構、鍵かもとは思っています。そして、この時点では盛土の問題を豊洲市場部門全体で認識はしてなかったんでしょう。そもそも専門家会議も始まってませんし。その後に専門家会議、そして技術会議が始まってから、部門全体で盛土問題を共有したというのが私の推測です。小さい嘘が、嘘を重ねることによって問題が巨大化したというのが、私のこの問題での現時点での結論です。組織としては有り得ないんですけどね、個人ならともかく。でもそういった事になったのは、この豊洲市場の計画が20年近くの長期計画であったことと、役所の異動が多い体質、役所の無謬性等が関連していると思っています。

 

 この検証報告書は意味がないとは言いません。決定された過程の事実の確認は行っていますから。しかし決定する事項をいつだれが発案をしたかが大事なんです。それをすると、大変だからしないんでしょうけどね。この調査特別チームの名簿があります。

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 これを見ると事務局は総務局行政監査室になってます。で、この事務局が、取りまとめをしたり、実際にヒアリングをしたんでしょう。しかしこの監査室がとことん調査をしたとします。でもその担当者たちは異動したら、調査で刺した上司や部署に異動するかもしれません。だからそんなのはできないですよ。実際にヒアリングを担当する人間は、せいぜい課長クラスがせいぜいでしょうし。課長が局長や市場長とかにヒアリングしても突っ込めません。次の異動で上司になるかもしれないのに。第一、ヒアリングをする部署の上司にしても、そんな怖いことは認めないでしょう。仮にやったら「君、次の異動で沖ノ鳥島灯台守ね。今は無人だけど有人にするから。君が初代の灯台守。満潮時には、ほとんど海の下になるから立ち泳ぎの練習しておいて」って言われるだけです。豊洲市場自体、20年の計画であったわけで、それに関連した人間の数の人数は膨大です。上役連中だけで数十人でしょう。そしての上役連中は異動で東京都全体に散っています。そんな問題に刺すような検証報告書を書くというのは、個人(ないし部署)単体で東京都全体にケンカを売るようなものです。それはできないでしょう。

 

 だからこの検証報告書は、意味があって意味がありません。東京都内では意味がありますが、東京都の都庁外では意味はありません。あくまで都庁内へのポーズ以上の意味しかないんですよね。ちょっと情報を出してみました、でも皆様、上役にはご迷惑をおかけしません、今の現場だけで責任の範囲を収めました、今後もよろしく、ぐらいですね。その責任にしても全体で判断して、誰が判断したかの責任所在は不明。だからこんな検証報告書は都庁外には何の意味もありません。小池都知事が作った「市場問題プロジェクトチーム」がどれだけ追求できるか。また9/30の小池都知事の会見で言っていた「職務遂行上の法令違反行為を通報する制度」、公益通報制度を設けるとのことですが、これらがどれだけ有益に働くかですね。小池さんにとってはね。

 個人的に思うのは、方法としては二つ。一つは責任者を片っ端から更迭する。もう一つは、責任は一切問わない。それは小池都政以前の問題。だから全部吐け。の二つでしょうね。そして実際に効果があるのは後者でしょう。実際のところ、これだけ組織的に隠蔽してる問題を「責任を取れ」で追いかけまわしても何も出ませんよ。逆に責任は問わない式で、全部ゲロしろで行くほうが効果的だと思います。

 

 <参考リンク+おまけ>

小池知事「知事の部屋」/記者会見(平成28年9月30日)|東京都

検証報告書の報告

小池知事「知事の部屋」 / 記者会見(平成28年9月10日)|東京都

盛土の報告

小池知事「知事の部屋」 / 記者会見(平成28年8月31日)|東京都

豊洲移転延期の報告

豊洲市場に関する会議資料|東京都中央卸売市場

 

・おまけ 

東京都職員の嘘ではないけど本当ではない仕事術

 

 建物下の地下空間には地下水モニタリングポストがあります。

 

 東京都の築地市場中央区)から移転する予定の豊洲市場江東区)で、盛り土がなかった主な施設の地下空間について、都の担当部局が将来新たに地下水汚染が見つかった際、状況を調べたり取水などの汚染対策に使ったりする「モニタリング空間」と呼んでいたことが分かった。

 都中央卸売市場の元担当者が朝日新聞の取材に応じ、「将来的なリスクへの対応を考えた結果だった。技術系職員は全て地下空間の存在を知っており、通称で呼んでいた」などと話した。技術系職員で広く認識されていたことが明らかになり、なぜ庁内全体で情報が共有されず、専門家に報告しなかったのかの解明が今後の焦点となる。

 

 と、言う報道があったわけですが、これ、前回も書いたように2年間の地下水を測定する観測井戸(モニタリングポスト)が地下空間にあるって事だけです。この観測井戸から地下水を汲んで、豊洲の地下水を測定していました。そこから有害物質が検出されるかどうかを見ています。で、それを2年間していたわけで、来月それの最後の測定があります。この地下水モニタリングで、東京都は測定結果の資料を作っています。その時点では、建物下の地下空間については知られていませんでした。しかし地下水の測定結果は、議会などに報告しないといけません。HPにも公開がされています。でも地下空間については知られるわけにはいきません。地下空間は公表してないものですからね。今回は、それを役人はどう誤魔化していたのか?という点でちょろっと書く小ネタになります。役人が誤魔化しをするとき、どういう考え方をするのかを自分なりの解釈で書いてみたいと思います。

 

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第7回:観測井設置箇所・分析項目等 (1.7MB)

 上の図の黒点は、五街区のモニタリングポストの設置位置です。下の図が五街区の建物とモニタリングポストの位置を重ねたものです。明らかに建物下にモニタリングポストがあります。そしてそれ以外のは建物外、地上部分にあるという事ですね。

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  よって、地下と地上部分の二種類のモニタリングポストがあることになります。ここで、この資料にあるモニタリングポストの絵が以下のものです。

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 これ、地上部の絵なんですよね。勿論、これはこれで正しいんです。地上と地下で2種類ある場合、こういう時は普通、それぞれを二種類書きます。それで、それぞれをイメージAとBにして添付するような形ですね。

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 こんな感じで、2種類を作るのが普通です。地上部と地下部だと大きくイメージが違いますから。まあ書いちゃうと、「地下空間って何?」とか「何で2種類あるの?」とか聞かれちゃいますから書かないんですけどね。

 役人っていうのはこういう「嘘ではないけど、本当ではない」というのを駆使して、誤魔化します。これ、左のA図だけでも嘘ではないんですよ。でもよりわかりやすくするのなら両方の併記が本当ですし、普通です。地上と地下にあるのは違いますから、普通はこういう形で親切に作ります。資料を見る人間に錯視を起こさせないためにね。なぜこれをしないのか?単純に説明をしないから、そして、説明をしたくないから、できないからです。地下空間は隠すつもりの部分ですから、突っ込まれない形で作るんです。だから伏せる。でもきっちり作ってる部分もあるんです。どのモニタリングポストが何の検査をしているか表を作っています。

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 物凄く細かく、かつ丁寧に作っています。この表を作った都の職員は優秀だと思います。パッと見ただけでどのモニタリングポストが何を分析するためのものかがわかります。それぞれのグリッドのどこに井戸があるかもわかるし。これだけ丁寧な資料を作れる人間が、モニタリングポストの絵とかで手は抜きません。ではここをなぜ丁寧に作っているのかというと、この部分は説明をする部分、説明ができる部分だからです。測定結果について質問をされた際に、直ぐに応えれる準備です。そしてこの資料を見る人間に何を測定しているかを理解してもらおうという熱意があるから、丁寧な表が作れるんです。ではあの図はどうかというと、モニタリングポストが地下にあるという事実は、説明ができない。だから理解させないように最小限の手間で作っているという事です。要するに最大限の手抜きをしているわけですね。だから最初に上げたモニタリングポストの設置図。

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これもしっかり作るのなら、こんな感じです。(まあサクッと線を入れてるだけですけど)青果棟がある建物の線を入れていれば「ああ、この枠の中のモニタリングポストは地下にあるんだな」っていうのが分かります。(注釈も入れてればよりわかりやすいでしょう)こんな線を入れるぐらい大した手間ではありません。で、実際、東京都も作ってるんですよ、建物下と建物外でわかる資料を。今回の東京都が作った検証報告書の資料にあります。

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 13 201か所のモニタリングの観測井戸の位置図 (565.6KB)

 これを見ると建物内、舗装部、緑地部の三か所に分けて、丁寧にモニタリングポストの位置を図示しています。更新日が平成28年5月(この日付にしてるのも作為的な臭いは感じますが)ですから、地下水モニタリングの計測の初期からこの図があったのかはわかりません。しかしこれぐらいの資料を作る力は東京都にはあるわけです。でもそれをしなかったのはなぜかという事です。こういう資料を作って、上司に持っていくと「煩雑で判り難いね。もう少しシンプルに作ってくれ」と言われるんでしょう。で、あの「手抜き」になる訳です。

 

 もう一つ、検証報告書から例を上げましょう。

12 平成24年8月23日の新市場建設懇談会説明資料 (2.9MB)

 

 平成24年8月の新市場建設懇談会の資料が上になります。この時に、各3棟の断面図がありますね。かなり詳細です。

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 新市場建設懇談会は新市場建設協議会の下部組織です。ここで合意を取った事項を上部の新市場建設協議会で、最終合意を取るという形式になっていました。

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 この時点で一杯ありますが、まだこれは豊洲の最初期の頃の図です。これらの機関は年次が進む都度、新しく協議機関が作られたり、廃止されたりしていきました。実際、築地からの委員も「また作るの?」とか新市場建設協議会の議事録にもありましたし。そら、情報の統合も難しいだろうとかは思ったりします。

 で、これらの最上位に当たる新市場建設協議会の第14回資料を見ると、平面図があります。平成24年11月27日に第14回が開かれましたから、先ほど挙げた平成24年8月の新市場建設懇談会の三か月後に開かれたことになります。

資料1 豊洲新市場建設工事施設計画の概要 (2.4MB)

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 ざっくりしてますな。まあ、ざっくりというのは只の私の感想だし、親会議に詳細なものを上げても仕方ないのかもしれませんけどね。下部の懇談会の方で合意は取れてるからOKというのが役人の考え方でしょうし。でもHPにアップされる資料には、地下がはっきり書かれているものは掲載しない。なかなか役人らしいなと思います。